胃腸は食物を受け入れ、栄養を吸収し、不要なものを余分な水分とともに排泄する働きをします。胃腸に問題が起こると、脱水や栄養不良、体液バランスの乱れが生じます。
元来、新鮮肉を好む猫に対し、腐肉食のオオカミを祖先にもつ犬の胃腸は比較的丈夫だといわれています。しかし、現代の食生活や、生活環境、無理な繁殖やストレスなどによって、胃腸の弱い犬も多くみられるようになってきています。
消化器症状を引き起こす原因は、細かく分類すれば200以上にもなるといわれています。そして、その主な症状は嘔吐・下痢・便秘です。すぐに治まる嘔吐や下痢は犬ではよくみられます。食べすぎや古い食品、軽度のストレスが原因なら、2〜3日で回復するでしょう。
しかし、症状がしばらく続くようなら、脱水や栄養不良の問題だけでなく、重大な病気が潜んでいる可能性もあります。嘔吐や下痢がみられたら、その状況をよく観察しておきましょう。愛犬・愛猫の病名を絞り込む助けとなり、スピーディーな治療につながるかもしれません。
嘔吐や下痢はどうして起こるのでしょう
嘔吐や下痢はすべての年代の犬・猫でみられますが、高齢犬・猫では特に下痢の症状が多くみられるようになります。その主な原因は次のようなことです。
腸内環境の悪化
腸の表面をおおう絨毛は、カーテンのドレープのようなひだ状になっています。絨毛は食物を効率的に消化吸収して、不要物をスムーズに排泄する役割をします。また、絨毛は腸内細菌の住みかでもあり、善玉菌を住まわせることで腸を健康に保っています。しかし、加齢とともに絨毛や善玉菌は減少し、代わりに悪玉菌が増殖しやすい環境に変化します。このため、今までと同じご飯を食べていても、おなかの調子を崩しやすくなります。
胃腸のはたらきの低下
シニア犬・猫になると感覚器官の衰えもあり、ちょっとしたことで怖がったり、寂しがったりといった心のストレスが多くなります。胃腸の運動は自律神経によって調節されています。ストレスが続くことで自律神経の誤作動が起こり、消化液の分泌が減ったり、胃腸の動きが遅くなったりします。また、高齢による運動不足も胃腸の働きを弱くする原因となります。
体温調節機能のおとろえ
シニア犬・猫は体温調節機能がおとろえています。冬の寒い日や、夏場でもクーラーのきいた室内で長時間過ごしていると、気づかない間におなかが冷えていることがあります。おなかの冷えは下痢の原因になります。室内を適切な温度に保ちつつ、腹巻やカイロなどを使っておなかが冷えない工夫をしてあげましょう。
嘔吐や下痢が続くときは・・・
嘔吐
原因は主に胃と十二指腸にあります。吐物はある程度消化されており、胃液が混ざり酸っぱいにおいがします。さらに胆汁が混ざると黄色くなります。
嘔吐の一番の原因は、食べ過ぎや腐敗物・刺激物の摂取です。健康でも、犬は空腹時に吐くことがあり、猫は毛玉を出すために吐くことがあります。また、薬剤などの中毒や、胃の中の異物が原因で吐くこともあります。他に、腎臓・肝臓・膵臓・副腎など内臓の問題による嘔吐もあります。それら内臓の通過障害による嘔吐は非常に激しく、元気もなくなります。
嘔吐がみられても元気であれば、半日ほど絶食をして様子をみてもいいでしょう。嘔吐が何回も続いて、元気がない場合には動物病院を受診する必要があります。
下痢
小腸に問題がある場合と、大腸に問題がある場合があります。一般に、小腸に問題がある場合の下痢は水様性になり、一回量が多く、栄養や水分が吸収できないために脱水や体重減少がみられます。
一方、大腸に問題がある場合には、より粘度が高い便が少量・頻回でみられ、粘膜が含まれることもあります。体重があまり変わらないのも大腸性の特徴です。
下痢の場合も、一番の原因は食べ過ぎや腐敗物の摂取です。また、神経質な犬・猫は環境変化やストレスでも下痢を起こします。寄生虫・細菌・ウイルスの感染症が原因となることもあります。食物アレルギーや自己免疫疾患、リンパ腫などの腫瘍が原因で下痢をするケースもあります。
短期間の下痢で、元気があればあまり心配はいらないでしょう。しかし、元気がなく、食欲もない場合は重篤な病気の可能性もありますので、速やかに動物病院を受診しましょう。
便秘
水分の摂取不足と、腸の運動性の低下のために便が出にくくなった状態です。特に猫は、水をあまり飲まないために便秘を起こしやすく、巨大結腸症という重度の便秘症にもかかりやすいため注意が必要です。また、普段から運動不足の小型犬も、便秘になりやすい傾向があります。
食欲や元気があれば、水分や食物繊維を増やすことで症状が改善することがあります。また、運動も有効な手段なので、定期的な散歩や遊ぶ時間を増やしてあげましょう。2日以上排便がなかったり、痛みや吐き気がみられたりする場合には、すぐに動物病院を受診しましょう。
食事で気を付けたいことは
フードの工夫
低脂肪で消化吸収の良いフードを選ぶとよいでしょう。今までのフードを急に変えるのではなく、様子を見ながら徐々に移行していきます。いつものフードを柔らかくふやかしてあげるだけでも消化のサポートになります。食欲がなければ少し温めて匂いを立たせると、食べてくれることもあります。嘔吐・下痢・便秘いずれの場合でも、1回の食事量を少なくして、食事回数を増やすことがポイントです。
サプリメントで腸内環境を整える
腸内環境を整えてくれる乳酸菌や消化酵素のサプリメント。また。下痢や便秘の改善には食物繊維を増やすこともおすすめです。
犬・猫の胃腸に役立つサプリメント選びのポイント
食物繊維
食物繊維には、水に溶ける「水溶性食物繊維」と、水に溶けない「不溶性食物繊維」の2種類があり、どちらも消化器症状の改善に重要な働きをします。
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水溶性食物繊維 |
不溶性食物繊維 |
特徴 |
・腸内細菌に分解されて腸細胞のエネルギー源となる
・腸内を酸性にして悪玉菌の増殖を抑える |
・過剰な水分を吸収して便を硬くする ・腸の運動を正常化する ・有毒物質の排泄を促す |
代表 |
ペクチン・ガム |
セルロース・ヘミセルロース |
豊富な食材 |
果物・筋の少ない野菜・芋・海草 |
根菜・筋の多い野菜・山菜・きのこ・豆 |
症状に応じて有効な食物繊維を選びましょう。下痢の場合は消化吸収能力が低下しているので、不溶性のものは避け、消化の良い水溶性食物繊維を少量加えるといいでしょう。
一方、便秘の場合には、水溶性と不溶性の両方の食物繊維を混合して使うとよいとされています。ただし、巨大結腸症になったときには、食物繊維が症状を悪化することがあるため、繊維をあまり含まない食事にする必要があります。
また、毛玉を作りやすい猫では、食物繊維を摂ることで毛玉を吐く回数を減らす効果があります。
乳酸菌などの善玉菌
腸内を酸性に保ち、有毒物質を作り出す悪玉菌の働きを抑えてくれます。この働きは、腸内での発がん性物質の合成を抑制したり、細菌やウイルスに対する抵抗力を高めたりすることにもつながります。
腸内で善玉菌を増やす代表的な方法としては以下のものがあります。
プレバイオティクス: オリゴ糖・食物繊維など腸内善玉菌の栄養源になるものを摂取する
プロバイオティクス: ヨーグルト・納豆など生きた善玉菌をそのまま摂取する
バイオジェニックス: 乳酸菌が作り出す物質を摂取するという方法で、胃酸や腸内細菌に影響されずに善玉菌の有効成分を取り入れられる手段として注目されています。
オメガ3脂肪酸
魚油由来のオメガ3脂肪酸は、腸粘膜の炎症を抑制する働きがあるとみられています。
グルタミン
非必須アミノ酸ですが、胃腸疾患のある動物では状況によって必須となることがあります。腸粘膜細胞のエネルギー源となり、腸粘膜の維持に重要な働きをするといわれています。
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